気がつけばクリスマス・イヴ。
大学院に進んでから、毎日レポートだの研究だのに追われて、日々の感覚が
ない。たまたま明日締め切りのレポートが早く終わって、久々にテレビをつ
けたらイヴ満載だったのだ。
「俺、来年は赤いから!」
去年、アンデはそう言って国へ帰っていった。
『O1』が2年続いたことからして『R』になるのは相当難しいのだろう。
なにせ、主席が試験に通らず、留年したくらいなのだから。
もうイヴ本番だからアンデは日本にいるだろう。
『R』だったら、今年はアンデが後輩を引き連れてプレゼントを配りまわっ
ているのだろう。
「なぁなぁ、アンタいくつっ?」
不躾なくせに真面目に勉強していて。
「かなり優秀だったんだよ、主席だよ?今だって『O
1』の主席だし。」
自信家で。
「憧れじゃん。」
目標がきちんとあって、目を輝かせていた。
「よっぽどいらないらしいなっ……。」
でも子どもっぽいところもあって。
「『R』かぁ……今年は忙しいかな。」
ちょっと想像してみて、ふふっと1人で笑う。
ちょっと失礼で自信たっぷりの頑張り屋で子どもなサンタ。
きっと人気者。
「来年、『彼氏ください』とか言うなよ。」
女の子もびっくりしてるかも。
だってまだひげが生えるほどおじいさんじゃないサンタだし。
顔も……そんなに悪くない。
彼女、なんてできちゃうかも。
あれ、でも国にいるのかも。
「人には『彼氏ください』って言うなとか言って。あたしの勝手じゃん、どう
いうつも――」
「言うな。」
言ってないよ、あたし。
願ってもないよ。
そういえば1人のイヴなんて何年ぶりだろう。
3年ぶりだ。
いつもアンデがいてくれた。
もう、日が変わる。
時計から窓へ目を移す。
伸びすぎた前髪をかき上げると、しゃらん、と音がした。
左腕のブレス。
涙が零れる。
「言うな。」
言わない。
だから、そのちょっと真剣だった声をもう一度聞きたい。
だから、軽い口調でもう一度話しかけて欲しい。
だから、また夢を聞かせて欲しい。
だから、もう一度2人で軽口叩いて話そうよ。
人なつこいところ。
努力を忘れないところ。
夢に向かって真っ直ぐ歩いていくところ。
でも、完全じゃないところ。
好きなんだ。
「ふ……。」
涙は止まらないけど、少し笑えた。
だってサンタに恋するなんて聞いたことない。
しかも1年に1回、初めて会って3回しか会ってないのに。
第一印象なんて、変な人だったのに。
レポートの表紙のインクが滲んでいく。
顔をテーブルに突っ伏して、涙を止めるように腕を押し付けた。
「アンデをください。」
そっと呟く。
泣いて目が痛くなったのと、それまでパソコンを見つめていた疲れで、そのま
ま眠ってしまった。
違和感で目が覚める。
身じろいだ瞬間に、肩から毛布がするっと落ちた。
……あれ、毛布かけたっけ。電気消したっけ。
……サンタの帽子なんてかぶってたっけ……。
目の前には小さな箱。
と、その下にレポートが。
少し滲んだその表紙に、書いた覚えのない手書きの文字が躍っている。
亜貴。
『R』は思いのほかたいへんで、イヴに間に合わなかった。
『彼氏』はおろか、今年も亜貴のねがいがわからなかったので、
おれがおれのねがいで雪をふらせてみた。
ほんとにふったのにはさすがにびっくりした。
サンタのねがいも叶うのか。
おれと亜貴のねがいがいっしょだったら、このプレゼントでいいと思う。
また来年くる。
あと、『R』の姿見せたかったんだけど、アンタ寝てたから、しょうこに帽子置いてく。
おれは、亜貴が初めて会ったときにくれた、『R』サンタ風の帽子持ってるからへいき。
おれがみまちがえたくらいだからバレやしないだろう。
アンデ・サンタ・クロース
小さな箱を開けると、細い細い銀のリングが入っていた。
内側に何か書いてあるが、あっちの言葉らしく、全く意味がわからない。
帽子を胸に抱いて、呟く。
願いじゃないから雪となって、君の上には降らないかもしれないけれど。
「ありがとう。アンデ、ありがとう。大好きだよ。」
また来年。君を待つ。
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