どうしたらあなたを救える
……どうしたら、あたしは救われる……

あたしは、その疑問に囚われて、
ずっともがいていたんだ

手を汚すことも、誰かを傷つけることも、全てはそのために



~1.風、舞い~

諒闇。
時間などわからない。どれだけ駆け回ったのか。
けれど、月さえ照らせないこの闇の黒さは、夜の深さを表している。

時代は変わった。多くの犠牲の下に。
将軍がいなくなって、侍もいなくなって、誰もが平等になって。
太陽と月の輝きだけは江戸の空にも、昨日の空にも、明日の空にもあって。
それでも暗いのは。

――光が届かないところにいるのはあたしのみか。

一閃。
鍔のない黒塗りの鞘から現れるは、白刃。迷いのない直刃。
それは躊躇いもなく目の前の存在を斬る。
斬る。
追い詰めた築地。
草鞋が音をたてる。

冷たい目が相手を射る。
相手は新政府の警官。さっきまでは仲間もいたけれど。
足元を見れば、刀を握ったまま地に横たわる赤く染まった体。

「お前か、新政府関係者に危害を与えているのは!」

若い。
22、3だろうか。

――攘夷戦争には参加していたのだろうか。していなかったとしたら、本当は――。
――今さらそんなこと考えて何になる。

その先の考えを無理矢理断ち切った。
着流しが風に靡く。
冷たく宣告する。

「全員を斬るつもりだ。」
「……っ許されると思うな。」

築地塀を背にした警官が、赤く濡れた刀を手にした相手を憎々しげに睨む。
共に相手を追ってきた仲間の姿が見えない。途中でやられたのか。
たった一人に……そう、たった一人の小娘に。
抜いていた刀を構える。
その瞬間。

「許されようなどとは思っていない。あたしにできることを、するだけだ。」
「!?」

間は詰められ、刀がぎりぎりと悲鳴を上げる。
間近で囁かれた声は、低く。

「お前たちこそ、許されると思うな。」

鍔のない刀が、相手の刀をはじき、そのまま突き立てられた。若い警官の体へと。
今夜も終わる。
躊躇いもなくその着流しで刀を拭い、黒い拵えの鞘に収める。
振り返る事なくその場を後にする。
ただ、一瞬だけ目を閉じて、思い浮かべる顔がある。

「待っててね、恭祐。」

闇を成す漆黒の粒子を流そうとするかのごとく、風が舞う。
赤を吸った着流しと、髪が風に靡く。
垣間見えたのは、左耳にくくりつけられた輝き。

光のない中、少女は前を見据える。


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